認知症になる前にやることを調べている人の多くは、親の将来が心配になった人、自分の老後を具体的に考え始めた人、相続や介護で家族に迷惑をかけたくない人です。
ただ、認知症への備えは「何となく貯金しておく」「エンディングノートを買う」だけでは足りず、判断能力があるうちにしか進めにくい手続きや話し合いがいくつもあります。
特に財産管理、医療や介護の希望、住まい、連絡先、デジタル資産、相続の考え方は、本人が元気な時期に整理しておくほど家族の負担を減らせます。
認知症になった後でも支援制度はありますが、本人の意思を細かく反映するには限界があり、家族が「本当はどうしたかったのか」と迷う場面が増えやすくなります。
この記事では、認知症になる前にやることを、法律やお金の準備だけでなく、医療、介護、暮らし、家族との話し合いまで含めて、実際に行動へ移しやすい順番で整理します。
認知症になる前にやることは先に決めておく

認知症への備えで最初に大切なのは、完璧な終活を一気に終わらせることではなく、本人の意思がはっきりしているうちに「誰に何を任せるか」を先に決めておくことです。
厚生労働省の認知症施策でも、認知症の人が尊厳を保ち、希望を持って暮らせる社会を重視しており、本人の意思を起点にした支援が重要になっています。
そのため、財産、医療、介護、住まい、相続の希望をばらばらに考えるのではなく、将来の生活を守るための一つの準備として整理する視点が欠かせません。
希望を言葉にする
最初にやるべきことは、自分がどのように暮らしたいのかを具体的な言葉にしておくことです。
認知症になる前は「家族なら分かってくれる」と考えがちですが、介護が始まると家族は施設入居、在宅介護、医療方針、費用負担など多くの判断を短期間で迫られます。
たとえば「できるだけ自宅で過ごしたい」という希望だけでは不十分で、どの程度まで在宅を望むのか、夜間の見守りが必要になったら施設を検討してよいのか、家族にどこまで負担をかけたくないのかまで書いておくと判断しやすくなります。
希望は一度書いたら終わりではなく、体調や家族関係、資産状況が変わるたびに見直すものとして扱うと、本人にとっても家族にとっても現実的な備えになります。
任せる相手を決める
次に重要なのは、将来の支援を誰に頼むのかを本人が判断能力のあるうちに決めておくことです。
家族が複数いる場合、長男や同居家族が当然にすべてを担うと思い込むと、実際には遠方に住んでいる、仕事が忙しい、金銭管理が苦手などの理由でうまく進まないことがあります。
財産管理に向いている人、医療や介護の場面で付き添える人、親族間の調整が得意な人は必ずしも同じではないため、役割を分けて考えることが大切です。
任せる相手を選ぶ際は、信頼できるかだけでなく、連絡が取りやすいか、記録を残せるか、他の家族に説明できるか、本人の希望を尊重できるかという実務面まで確認しておく必要があります。
財産の全体像を整理する
認知症になる前に財産の全体像を整理しておくと、将来の介護費用や生活費をどこから支払うのかが見えやすくなります。
預貯金、不動産、保険、年金、証券口座、借入金、クレジットカード、定期購入サービスなどを一覧化しておかないと、家族は通帳や郵便物を探しながら手続きを進めることになります。
特にネット銀行やネット証券、キャッシュレス決済、サブスクリプションは紙の通知が少ないため、本人しか存在を知らないまま放置される可能性があります。
財産目録は金額を細かく毎月更新するよりも、金融機関名、支店名、口座の種類、保険会社名、不動産の所在地、連絡先を整理し、家族が問い合わせ先にたどり着ける状態にすることを優先しましょう。
医療の希望を残す
医療の希望は、認知症になる前に家族と共有しておきたい代表的なテーマです。
延命治療を望むかどうか、入院より自宅療養を重視するか、痛みを和らげるケアを優先したいか、最期をどこで迎えたいかといった希望は、本人が話せるうちに確認しないと家族が大きな迷いを抱えます。
医療方針は一つの正解があるものではなく、年齢、病気の状態、家族の介護力、地域の医療体制によって選択肢が変わります。
だからこそ、かかりつけ医の名前、服薬状況、アレルギー、既往歴、緊急連絡先をまとめ、本人の価値観を家族が説明できるようにしておくことが大切です。
介護の優先順位を決める
介護の備えでは、在宅か施設かを二択で決めるよりも、本人が何を優先したいのかを整理することが役立ちます。
自宅での生活を大切にしたい人でも、家族が疲弊するほど在宅にこだわるのは望まない場合がありますし、施設入居に抵抗がある人でも、安心して入浴や食事の支援を受けられるなら前向きに考えられる場合があります。
優先順位としては、住み慣れた地域、費用の上限、個室の有無、医療対応、家族が通いやすい場所、食事やレクリエーションの雰囲気などが挙げられます。
元気なうちに地域包括支援センターや自治体の介護相談窓口を知っておくと、いざ介護保険の申請が必要になったときに家族が動きやすくなります。
住まいの安全を見直す
住まいの安全確認は、認知症になる前に始めるほど効果が出やすい準備です。
認知症が進んでから家具の配置や生活動線を大きく変えると、本人が混乱したり不安を感じたりすることがあるため、元気な時期から少しずつ暮らしやすい環境に整えるほうが自然です。
玄関や階段の照明、浴室の滑り止め、火の消し忘れ対策、薬の置き場所、重要書類の保管場所、近所の人との連絡手段などは、事故や行方不明のリスクを下げるうえで役立ちます。
安全対策は本人の自由を奪うためではなく、できるだけ長く自分らしく暮らすための土台として説明すると、家族の提案も受け入れられやすくなります。
相続の考え方を共有する
相続の話し合いは気まずさから後回しにされやすいものですが、認知症になる前に方向性だけでも共有しておく価値があります。
誰にどの財産を渡したいかだけでなく、自宅を売る可能性、同居している家族への配慮、介護を担った家族への感謝、事業や農地の承継など、家族ごとに考えるべき事情は異なります。
遺言書を作るかどうかは専門家に相談して決めるとしても、本人の思いを家族が知らないまま相続が始まると、金額以上に感情面の対立が起こりやすくなります。
相続の準備は「亡くなった後の話」だけではなく、認知症になった後の不動産管理や介護費用の支払いにも関わるため、早めに家族会議のテーマに入れておきましょう。
記録を更新する
認知症になる前に作った記録は、作成した日付と更新日を残しておくことが大切です。
古い情報のままだと、解約済みの口座が残っていたり、すでに関係が変わった親族を連絡先にしていたり、本人の希望と現状がずれていたりすることがあります。
年に一度、誕生日や年末年始など分かりやすいタイミングで、財産目録、医療情報、緊急連絡先、介護の希望、デジタル関連情報を見直す仕組みにすると続けやすくなります。
記録は細かさよりも使えることが重要なので、家族が見つけられる場所に保管し、必要な人には保管場所だけを伝えておくと、いざという時に役立つ資料になります。
お金と法律の備えは判断能力があるうちに進める

認知症への備えで後悔が起きやすいのは、お金や法律の手続きを先延ばしにした結果、本人名義の口座や不動産を家族が自由に扱えなくなる場面です。
法定後見制度は本人を守る大切な制度ですが、判断能力が不十分になってから家庭裁判所を通じて利用する仕組みであり、本人が元気なうちに希望どおりの柔軟な管理方法を選ぶこととは性質が異なります。
任意後見、財産管理等委任契約、家族信託、遺言などは似ているようで役割が違うため、目的を整理してから専門家へ相談すると失敗を避けやすくなります。
任意後見を検討する
任意後見は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来判断能力が不十分になった場合の支援者と支援内容を契約で決めておく制度です。
将来の生活費管理、介護サービス契約、施設入居手続き、医療や福祉サービスの利用支援などを誰に任せるのかを事前に決められるため、本人の意思を反映しやすい点が特徴です。
| 項目 | 考え方 |
|---|---|
| 始める時期 | 判断能力があるうち |
| 効力が動く時期 | 判断能力が不十分になった後 |
| 主な目的 | 生活や財産管理の支援 |
| 注意点 | 契約内容の設計が重要 |
ただし、任意後見は契約を作ればすぐにすべて解決するものではなく、実際に効力を動かすには任意後見監督人の選任などの手続きが関係します。
そのため、公証役場や司法書士、弁護士などに相談し、家族構成や資産状況に合う形で設計することが重要です。
家族信託を比べる
家族信託は、信頼できる家族に財産管理を任せる仕組みとして知られており、不動産やまとまった資産がある家庭で検討されることが多い方法です。
たとえば、親名義の自宅を将来売却して施設費用に充てる可能性がある場合、認知症が進んでからでは売却手続きが難しくなることがあるため、元気なうちに管理方法を決めておく意味があります。
家族信託で検討しやすい場面は、次のようなケースです。
- 親名義の不動産がある
- 将来の売却を考えている
- 賃貸物件を管理している
- 家族内に信頼できる受託者がいる
- 介護費用の支払い原資を明確にしたい
一方で、家族信託は万能ではなく、身上保護や医療同意の代わりになるわけではないため、任意後見や遺言と組み合わせて考える必要があります。
遺言を残す
遺言は亡くなった後の財産分けを決めるものですが、認知症になる前の準備としても大きな意味があります。
本人の判断能力が低下してから遺言を作ろうとすると、遺言能力の有無が問題になったり、家族間で「本当に本人の意思だったのか」という疑いが出たりすることがあります。
公正証書遺言を利用すれば、公証人が関与し、原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんのリスクを抑えやすくなります。
ただし、遺言だけでは生前の財産管理や介護費用の支払いに対応できないため、認知症になった後の生活支援と亡くなった後の相続対策を分けて考えることが大切です。
医療と介護の準備は生活の希望から逆算する

認知症になる前に医療と介護の準備をする目的は、将来の不安をゼロにすることではなく、本人にとって大切な生活の形を守りやすくすることです。
認知症は進み方や症状の出方に個人差があり、すべてを事前に決めきることはできませんが、希望の方向性を共有しておくだけで家族の判断は大きく変わります。
医療情報、介護の相談先、住まいの選択肢を早めに整えておけば、急な入院や介護認定の申請が必要になったときにも落ち着いて対応できます。
かかりつけ医を持つ
認知症への備えでは、体調が悪くなってから医療機関を探すのではなく、普段から相談できるかかりつけ医を持つことが重要です。
もの忘れ、睡眠、食欲、歩き方、服薬状況、持病の変化などを継続的に見てもらえる医師がいると、認知機能の変化にも早く気づきやすくなります。
| 準備する情報 | 家族に役立つ理由 |
|---|---|
| 病院名 | 受診先を迷わない |
| 薬の一覧 | 飲み合わせを確認しやすい |
| 既往歴 | 救急時に説明しやすい |
| アレルギー | 治療時の事故を防ぎやすい |
医療情報は紙のファイルとスマートフォンのメモなど、家族がすぐ確認できる形で二重に残しておくと安心です。
気になる症状がある場合は、年齢のせいと決めつけず、地域のもの忘れ外来や認知症疾患医療センターなどの相談先も調べておきましょう。
介護保険の流れを知る
介護保険は必要になった時点で申請すればよい制度ですが、流れを知らないまま介護が始まると家族が戸惑いやすくなります。
一般的には、市区町村の窓口で要介護認定を申請し、認定調査や主治医意見書を経て要支援または要介護の区分が決まり、ケアマネジャーとサービス利用を考えていきます。
事前に知っておきたいポイントは、次のとおりです。
- 申請先は市区町村
- 相談先は地域包括支援センター
- 認定には一定の期間が必要
- ケアプランでサービスを組む
- 状態変化で区分変更を申請できる
介護保険の詳細は自治体によって案内方法が異なるため、本人の住所地の窓口や地域包括支援センターを確認しておくと、家族が動き出す時の負担を減らせます。
施設の条件を考える
施設入居は本人にとって大きな生活環境の変化になるため、元気なうちに条件を考えておくと納得感のある選択につながります。
費用だけで選ぶと、家族が通いにくい、医療対応が合わない、本人の性格に合わないなどの問題が後から出ることがあります。
確認したい条件には、月額費用、入居一時金、医療対応、認知症ケアの体制、看取り対応、面会のしやすさ、食事、個室の広さ、レクリエーションの雰囲気などがあります。
見学できるうちに複数の施設を比較し、本人が何を嫌がるのか、何なら受け入れやすいのかを聞いておくと、将来の施設選びが家族だけの重い判断になりにくくなります。
家族との話し合いは一度で終わらせない

認知症になる前の準備は、本人だけが書類を整えれば終わるものではありません。
家族が本人の希望を知らなかったり、兄弟姉妹で役割分担の認識が違ったりすると、いざ支援が必要になったときに感情的な対立が起こりやすくなります。
話し合いは一度で結論を出すよりも、小さなテーマを何度かに分けて共有し、本人の気持ちと家族の現実的な負担をすり合わせることが大切です。
家族会議を開く
家族会議は、相続の分け方をいきなり決める場ではなく、本人が将来どのような支援を望むのかを共有する場として始めると話しやすくなります。
最初からお金の話を前面に出すと身構える家族もいるため、住まい、通院、緊急連絡先、介護が必要になった時の相談先など、生活に近い話題から入るのがおすすめです。
| 話題 | 確認すること |
|---|---|
| 住まい | 自宅希望か施設も検討するか |
| 介護 | 誰が主に動けるか |
| お金 | 介護費用の原資 |
| 連絡 | 緊急時の優先順位 |
会議の内容は簡単なメモでよいので残しておき、後から参加していない家族にも同じ情報を共有すると誤解を減らせます。
本人が話しにくそうな場合は、専門家の相談会や地域包括支援センターの情報をきっかけにするなど、責められていると感じない進め方を意識しましょう。
役割分担を決める
認知症への備えでは、家族の役割分担を早めに決めておくことが重要です。
介護が始まると、通院付き添い、買い物、役所手続き、金銭管理、施設探し、親族への連絡などの細かな負担が積み重なり、特定の一人に集中しやすくなります。
分担しやすい役割は、次のように整理できます。
- 通院付き添い
- 介護サービスの連絡
- 支払い管理
- 書類保管
- 親族への共有
- 緊急時の駆けつけ
遠方に住む家族でも、書類作成、施設情報の比較、費用管理、電話連絡などを担える場合があるため、近くに住む人だけに負担を寄せないことが大切です。
感情の対立を防ぐ
認知症になる前の話し合いでは、正しい手続きだけでなく、家族の感情に配慮することも欠かせません。
親が元気なうちから介護や相続の話をすると、親は「早く財産を分けたいのか」と感じることがあり、子ども側も「親を急かしているようで申し訳ない」と感じることがあります。
そのような時は、お金を得るための話ではなく、本人の希望を守り、家族が迷わないようにするための話だと伝えることが大切です。
感情的になった場合は、その場で結論を出そうとせず、次回までにそれぞれが考える時間を置くことで、無理な説得や一方的な決定を避けやすくなります。
デジタルと日常生活の整理で家族の負担を減らす

近年は、認知症になる前の準備としてデジタル情報の整理も重要になっています。
銀行や証券、保険、公共料金、写真、メール、スマートフォン、SNS、サブスクリプションなどが本人のIDやパスワードに紐づいているため、家族が存在を知らないまま困るケースが増えています。
一方で、パスワードをむやみに共有すると不正利用やトラブルの原因になるため、保管方法と開示する相手を慎重に決めることが必要です。
デジタル資産を一覧化する
デジタル資産の整理では、パスワードそのものを家族全員に配るのではなく、どのサービスを使っているかを一覧化することから始めます。
ネット銀行、ネット証券、電子マネー、ポイント、クラウド写真、メール、SNS、有料アプリ、動画配信サービスなどは、本人が使っているつもりでも家族には見えにくい情報です。
| 種類 | 整理する内容 |
|---|---|
| 金融系 | サービス名と連絡先 |
| 通信系 | 契約会社と支払い方法 |
| SNS | 利用有無と希望 |
| 写真 | 保存場所 |
一覧表には、ログイン情報そのものではなく、問い合わせに必要な契約名や登録メールアドレスのヒントを残すだけでも家族の負担は減ります。
重要なパスワードは安全な保管方法を選び、信頼できる一人に保管場所を伝えるなど、利便性と安全性のバランスを取ることが大切です。
重要書類をまとめる
重要書類は、認知症になる前に一か所へまとめておくと、入院、介護申請、保険請求、相続のどの場面でも役立ちます。
保険証、介護保険証、年金関係書類、保険証券、不動産の権利関係書類、通帳、印鑑、マイナンバー関連書類、遺言や契約書の控えなどは、保管場所が分からないだけで手続きが止まります。
まとめておきたい書類は、次のように分類すると探しやすくなります。
- 本人確認書類
- 医療と介護の書類
- 金融機関の資料
- 不動産関連書類
- 保険証券
- 法律関係の契約書
ただし、防犯上の理由から現金、通帳、印鑑、暗証番号を同じ場所に置くのは避け、家族には「どこに何があるか」だけを必要な範囲で伝えるようにしましょう。
生活の癖を伝える
認知症になった後の支援では、財産や書類だけでなく、本人の日常生活の癖や好みが大きな助けになります。
朝起きる時間、好きな食べ物、苦手な音、落ち着く場所、怒りやすい場面、入浴の習慣、服の好み、昔から大切にしている人間関係などは、介護する側が知っていると本人の不安を和らげやすくなります。
認知症のケアでは、本人にとって意味のある習慣を尊重することが生活の安定につながるため、家族だけでなく介護職にも共有できる形で残すと役立ちます。
生活の癖は些細に見えても、施設入居やデイサービス利用の場面で本人らしさを守る手がかりになるため、元気なうちに聞き書きしておく価値があります。
早めの備えが本人の意思と家族の安心を守る
認知症になる前にやることは、財産を守るための手続きだけではなく、本人の暮らし方、医療や介護の希望、家族への思いを具体的に残すことです。
特に、任せる相手を決めること、財産の全体像を整理すること、任意後見や家族信託や遺言の必要性を比べること、医療情報と介護の希望を共有することは、判断能力があるうちだからこそ進めやすい準備です。
一度にすべてを終わらせようとすると負担が大きくなりますが、まずは希望を書き出し、次に家族と共有し、その後に専門家へ相談する順番で進めれば現実的に行動できます。
認知症への備えは不安をあおるものではなく、将来の選択肢を増やし、本人が自分らしく暮らすための準備です。
今日できる小さな整理から始めておけば、家族は迷いにくくなり、本人の意思を尊重した支援につなげやすくなります。



